聖書箇所ーマタイ福音書2:1~12
◇救い主の降誕を求めて、星を目当てに旅してきた博士たちは、ベツレヘムで幼な子の降誕を目にして喜び、黄金・乳香・没薬の贈物を捧げた。ここからこの博士たちは三人だったと私たちは思い込んでしまっている。
◇この「三人の博士」に対して「もう一人の博士」という題の小説がある。三人の名はカスパル・メルキオール・バルタザールと言った。そしてもう一人の博士アルタバン。この四人で救い主を探しに行こうと約束し、アルタバンは救い主に三つの宝石を捧げようと用意していた。彼は都合により出発が遅れてしまったが、仲間を追いかける途中で、死にそうな病人に出会い、見捨てられずに看病している内に、待ち合わせに遅れ、しかも看病のために大切な宝石の一つを売るはめになってしまった。
◇3日遅れで到着したベツレヘムには、仲間の博士たちも幼な子とその両親もすでにいない。ある家で休んでいると、突然兵隊がやって来て、町中の2歳以下の男の子を殺していると言う。アルタバンの休んでいた家にも小さな男の子がいた。彼はその兵隊に第二の宝石を渡して幼な子を助けた。そして救い主を探し求めて、アルタバンの長い旅が始まる。
◇33年の歳月がたった。今アルタバンはエルサレムにいる。町中に不思議なざわめきがあった。ゴルゴタの丘の上でこれからはりつけの処刑があるのだと言う。そして二人の強盗と一緒に十字架に付けられるのは、自分で「ユダヤ人の王」とか「救い主」とか言っている男だと。
◇アルタバンの心は激しく動揺した。もしかして自分が探し続けてきた、あの救い主だろうか。ゴルゴタに行ってみようと思って歩き出した時、若い娘が兵隊の手をすり抜けて彼のところへ逃げてきた。聞けば奴隷に売られて行くところだと言う。アルタバンはずっとふところに入れていた第三の宝石を兵隊に与えてこの娘を解放してやった。
◇その時、地震が起こってアルタバンは石の下敷きになってしまった。彼は薄れゆく意識の中で、一体自分の人生は何だったんだろうと考えた。すると静かな遠い声が聞こえた。「あなたによく言っておく。わたしの兄弟であるこれらの最も小さい者のひとりにしたのは、すなわちわたしにしたのである」。アルタバンは安心し切った顔をして息を引き取った。
(大村 栄)