聖書箇所ーエレミヤ書28:1~17

◇紀元前6世紀、ユダ王国はバビロニアによって滅ぼされる直前だった。預言者「1:ハナンヤ」が叫んだ。「2:万軍の主はこう言われる。わたしはバビロンの王の軛(くびき)を打ち砕く。3:2年のうちに、わたしはバビロンの王ネブカドネツァルがこの場所から奪って行った主の神殿の祭具をすべてこの場所に持ち帰らせる」。それは民の喜ぶ楽観的な預言だった。

◇これに対して預言者エレミヤが語ったのは、「この地は全く廃虚となり、人の驚くところとなる。これらの民はバビロンの王に70年の間仕える」(25:11)という悲観的な預言で、大衆から売国奴呼ばわりされた。だが彼は言う。「9:平和を預言する者は、その言葉が成就するとき初めて、まことに主が遣わされた預言者であることが分かる」。

◇エレミヤは神に「2:軛の横木と綱を作って、あなたの首にはめよ」(27:3)と命じられ、重荷を負うということを視覚的に訴えた。だが「10:預言者ハナンヤは、預言者エレミヤの首から軛をはずして打ち砕いた」。

◇2人を取り巻く群衆は、ハナンヤの言葉と行動を喜び、悲観的な預言をするエレミヤを罵倒し、嘲笑しただろう。そんな声を背に受けながら「11:預言者エレミヤは立ち去った」。

◇しかし実は、神は不信仰に陥っているイスラエルを、バビロン捕囚という試練の体験を通して、信仰に立ち帰らせようとされていたのだ。

◇うつむいて退くエレミヤは、神からハナンヤへの言葉を託される、「16:お前は今年のうちに死ぬ。主に逆らって語ったからだ」。そして「17:預言者ハナンヤは、その年の七月に死んだ」。エレミヤはそんな逆転を予測していた訳ではない。ただ最後には神の意志が実現するという信頼を持っていたから、敗北しても抗うことなく、静かに立ち去ることができた。

◇ヨブ記最大のメッセージは、最後(42:7以下)にヨブが繁栄を回復したというハッピーエンドではない。それ以前に、彼がどん底で苦悩の意味を神に問い、神の答えを受けることが出来たという体験である。それと同様に、エレミヤがうなだれて退場したとしても、胸の空くような逆転劇がなくても、私たちはそこに聖書の告げるメッセージを読み取ることができる。それは神の言葉が決して空しく消えることはないと信じる信頼である。
                             大村 栄