聖書箇所 使徒言行録27:33~44

◇エルサレム教会への献金を届けに上京したパウロは、ユダヤ人たちに襲われたが、ローマの千人隊長に助けられた。そこで彼が語った彼を支えるものとは、「正しい者も正しくない者もやがて復活するという希望」(24:15)だった。

◇正しく生きた者が非業の死を遂げ、悪い者が円満に死ぬような現実の彼方に、すべての者が復活して主の裁きの前に立ち、改めて真実な評価がなされると語るパウロは、律法を重んずる保守派の批判を受けた。

◇彼らはローマの地方総督にパウロの処罰を願い出たが、パウロ自身は、「私は皇帝に上訴します」(25:11)と宣言する。ローマの市民権という特権を持つ彼のこの要望に、ユダヤ人はもちろん、ローマの地方総督もこれを受け入れざるを得ず、パウロはローマに向けて護送されることとなった。

◇かつてパウロは、ローマの信徒への手紙の冒頭に「ローマ訪問の願い」を書いた(1:15)。それがこういう形で実現するとは思ってもいなかった。人間の計画ではあり得ない事態だ。これが神のご計画だったのだ。

◇船旅のルートは聖書巻末の地図9に記される。地中海を西へ進み、10月にクレタ島に立ち寄った。冬を過ごす良い港をさがす内に暴風に遭遇し、船は一気にアドリア海の沖合に押し出された。積荷を捨てて船を軽くして、流されるままにした。「20:幾日もの間、太陽も星も見えず、暴風が激しく吹きすさぶので、ついに助かる望みは全く消えうせようとしていた」。

◇まさに「破局」の中で囚人パウロが立って、神から託された言葉を語る。神は私に言われた、「23:パウロ、恐れるな。あなたは皇帝の前に出頭しなければならない」と。だから皆さん「22:元気を出しなさい。船は失うが、皆さんのうちだれ一人として命を失う者はない」。皆で目的地まで行けるのだ。

◇船員たちが小舟を降ろして逃げ出そうとしたので、兵士たちは綱を切って小舟を流してしまった。風と波に任せる運命共同体だ。浅瀬に座礁して進めなくなった時には、兵士たちは囚人たちが逃亡しないよう殺そうとしたが、千人隊長がそれを禁じ、パウロを含む全員が陸に上がった。

◇そこはマルタ島で、やがて全員がそれぞれが目指すローマに向けて旅を進めることができた。破局に面した時も、その旅を支えたのは、「正しい者も正しくない者もやがて復活するという希望」だったのだ。     (大村 栄)